inquirer
現象を

/パフォーマンス/10分間
/椅子、コーヒーポット、コップ、墨、ビデオプロジェクター
/芸術研究科博士後期課程年度報告会
/2004年1月28日(水)14:00-17:00

現象と概念の間

 この作品のタイトルが示した通り、私が見せたいのはある「現象(げんしょう)」です。

 我々は現象を観察、分析してその中から法則や原理を見出す習性を持っていると思います。自然界の出来事(=現象)からの場合は科学の方法があるし、人間界の出来事の場合なら哲学の方法があります。

 2つのリンゴが置かれているとしましょう。見えても見えなくても、考えても考えなくても、その「2つのリンゴが置かれている」という事実、現象は変わらないのです。しかし、科学が「1つのリンゴと+1つのリンゴ=2つのリンゴ。だから1+1=2である」と分析してくれます。なるほど。哲学ならこう分析するでしょう。「これはある本体・本質が意識にあらわれた姿である」

 「1+1=2」のような数式でも、本質・意識のような定義でも、現象から分析して見出された「概念」です。

 既成の現象から新しい概念へは、その間は観察、分析、実験、検証といった作業が不可欠だと考えられます。リンゴ以外のものを使って実験して数式を証明するようなことです。これは科学と哲学がたどる道と目指す目標でもあります。

芸術は科学・哲学とは逆

 科学・哲学が現象から概念への道をたどるのなら、芸術はその逆――無形な概念から現象へ。

 思想、感情のような無形な概念を、画家は絵画にしてしまいます。キャンバスに描かれなければ存在しないこの絵画は、現象であり、新たに派生した「現実」です。既成の現象を分析して新しい概念を派生させる科学・哲学のように、芸術も既成の概念を創作によって新しい現実を作り上げているのです。その過程はまるで逆でありながら、何かと性質が似ていると思ってなりません。

このパフォーマンスは

 英語のタイトルに私は「inquirer」をつけました。意は尋ねる人、調査者、探求者です。科学者、哲学者のように、芸術の場合は表現者がいます。つまり、無形なものを、形のあるものに表す方法を探る者の物語です。このパフォーマンスの前半は、ある現象からの発見から始まり、分析と検証を経て感情が派生する過程を見せています。後半は、ある無形な感情を形にしようと彷徨う過程を象徴的に表現したものです。